道迷いについて

そもそも「道迷い」とは、目的地や行く先を見失ったり、選ぶ道を迷うということではない。「現在地がわからなくなって自分がどうしたらいいのかわからなくなってしまう」ということが道迷いということだ。現在地がわからなくなるから、歩いている道、向いている方向、向かう先をもわからなくなってしまう。
逆に現在地がわかり、それに対応できることができれば、落ち着きを取り戻すことができる。

そんな時にGPSは頼れる道具の一つかもしれない。
GPS(グローバル・ポジショニング・システム)。人工衛星からの電波を捕捉し、人工衛星からの距離を計算することで自分の位置を知るシステムである。打ち上げられている24個以上の衛星のうち、4個以上の電波を捕捉することで位置と高度を把握することができる。時間と空間での位置を地図に落とし込むことで、現在地を知ることができる。しかしGPSは実際の現在地は教えてくれるかもしれないが、物理的なこと以上は教えてくれない。

9月中旬の紅葉真っ只中の時期にひとりで最小限の荷物を持って大雪山にハイキングに出かけ、3日間山中に篭った。
夜、満天の星を眺めていたら流れ星が二つ同時に流れた。とても大きな流れ星で流星痕も長くてくっきりとしていた。それから数時間おきにテントの外に出て星空を眺めていると、当たり前のことだけれど、見える星の位置が変わっていることに気がついた。
「そうか、現在地は星の位置からもわかるんだ」
日本地図をつくった伊能忠敬も測量の際に天文学を学んだということをある書物で読んだことがある。
星だけではない、地形や植物、風、空、雪の積もり方、さまざまなものを観察することが現在地を知ることにつながるのだ。
見えない時でも、たったひとつ見える星から、その向こうに星空を想像する力や、目印となる地形や植生などの対象物からヒントを捉え、起こっていることを察知していく力も必要になる。

それは実際の山歩きでの現在地という意味だけではなく、人間関係や仕事、日々の暮らしのことにも置き換えて考えることができる。
見たこともないことや、聞いたこともないことに迫られた時にどうしたらいいのか。自然を感じて過ごす時間を積み重ね、変化を読み取ったり、今起きていることの向こう側を想像して、自分の現在地を把握することで冷静な判断ができる。近い遠い、早い遅い、急緩、きれい、好き嫌い、さまざまな角度からさまざまなものをよく見て観察し、それと自分とを照らし合わせるから自分の今の状況を理解することができる。
自分の位置は自分だけでは決してわからない。
そして何かにチャレンジしたり、新しいことをはじめたりするうえで、道迷いのない暮らしなんてないんだということにも気づかされる。

今回ご紹介させていただくのはコスタリカのお豆。

現在、コスタリカには200以上のマイクロミルがあるが、2001年にファン・ラモンさんによって設立されたブルマスマイクロミルは、当時コスタリカでニ番目にできたマイクロミル。
ファン・ラモンさんは、農学博士でもあり、「ハニープロセス」を確立し、普及させた方でもある。
「自身で栽培したコーヒーチェリーをメガミル(巨大生産処理場)に納め、それらが他のチェリーと混ぜられ、“コスタリカコーヒー”として売られるのではなく、自分たちの大切に育てたコーヒーは自分たちで処理をし、自分たちの豆として売りたい」という考えで生まれたのが、「マイクロミル(小規模生産処理場)」。
このコスタリカでの「メガミルからマイクロミルへ」という流れが「マイクロミル革命」と呼ばれ、マイクロミルとハニープロセスというキーワードは、今ではコスタリカにおけるスペシャルティコーヒーの特徴のひとつともいえる。

生豆が到着し、袋を開けた時、一粒一粒がとてもきれいだったのが第一印象で、焙煎後に抽出したコーヒーの印象はほのかなオレンジのような味わいがありながらもハチミツや黒糖のような甘さと口当たりがとても印象的だった。

コスタリカ
農園:サン・ミゲル
生産者 : ファン・ラモン・アルバラード
生産処理場 : ブルマス
品種 : ヴィジャサルチ
生産処理:レッドハニー
標高:1200m-1600m
中煎り

ほのかなオレンジの印象に、蜂蜜のような甘さと口当たり、やさしく柔らかい味わいのコーヒーです。