調和

持てる力を発揮して狙い通りにターンを刻む。
写真映えするような派手な見た目ではなく、雪や地形、天気といった自然、自分の技量と心の状態、すべてが調和したとき、力のないきれいなターンで斜面を滑ることができる。
もちろんそんな瞬間は滅多にない。本当にあったのかと問うと疑問にすら思う。

スキーは「調和」を探す乗り物だとつくづく思う。

生産地の気候や栽培方法窓といった特徴、送り届けられたときの生豆の状態、気温や湿度、機械の状態、そして自分の技量と心の状態、コーヒーもその全てが調和したとき、透き通るような透明感が表れ、晴れやかな気持ちになる。

コーヒーもまた、多くの学びと気づきを感じながら「調和」を探している。

忘れられない記憶

スキーでは忘れられない一本というものがいくつかある。
羊蹄山大斜面。晴天でパウダースノー、背後からの日の出の光とともに滑り出す。自分の巻き上げたスプレーの影に襲われるんじゃないかという、初めての経験。ご縁から譲ってもらった新しい道具とそれに乗り慣れる体、誘ってくれた仲間。全てが一つの物語のようになって一本の滑りに表れる。11年前に滑った忘れられない一本の記憶が蘇った。

コーヒーでは新しく店頭に登場した「ボリビア ラス・アラシータス ゲイシャ ピーベリー」。
昨年も同じものをご縁があって少量譲っていただいた。その時は初めての品種、その豆の硬さや形、クセに戸惑い、少しも納得のいく焙煎ができないまま悔しい思いだけが残って終わってしまったが、今年もありがたいことに焙煎する機会に恵まれた。
コーヒーは焙煎した後のカッピングで、豆がどう焼けているのか答え合わせができるが、このアラシータス ゲイシャ ピーベリーは焙煎している最中から、香りや音や色の変化でその答えがわかるほど、透き通るように明るく、果実の甘さを感じる。
悔しさも含めてのこの美味しさは、間違いなく、忘れられない一杯になるだろう。

これからの力

スキーでもコーヒーでもその忘れられない記憶がこれからの力になっている。
その忘れられない記憶は、そのときのその場所や人、自然、自分の現状とそれまでの過程と「調和」した記憶だ。
それはスキーやコーヒーだけではなく、全てにおけることで、「調和」がとれたときは、力が抜けていて、透き通るように透明感がある。

スキーは楽しく調和を求める乗り物で、コーヒーは調和に向かう力をくれる。

あとはそこに向かうために進むのみ