Brumas del Zurquí -Juan Ramón Alvarado- (Costa Rica)
マイクロミル革命
コスタリカのスペシャルティコーヒーを語る上で欠かせないのは「マイクロミル革命」という言葉。コスタリカにおけるコーヒー生産のあり方と品質を方向転換させる大きなできごとだ。

コスタリカは、もともとはさまざまな農園の豆が混ぜられたコマーシャルコーヒーの生産国だった。小さな農園が収穫したコーヒーチェリーが地区ごとに集められ、混ぜられたものがメガミルと呼ばれる巨大な生産処理場で処理されていた。それが国や地区ごとに“コスタリカコーヒー”というブランドとして売買される。均質でリーズナブルなコーヒーを大量に流通させるのには適したやり方ではあった。
しかし、どんなに良いコーヒーを栽培しても他の豆と混ぜられては生産者が報われない。

「自身で栽培したコーヒーチェリーをメガミル(巨大生産処理場)に納め、それらが他のチェリーと混ぜられ、“コスタリカコーヒー”として売られるのではなく、自分たちの大切に育てたコーヒーは自分たちで処理をし、自分たちの豆として売りたい」という考えで生まれたのが、「マイクロミル(小規模生産処理場)」。 このコスタリカでの「メガミルからマイクロミルへ」という流れが「マイクロミル革命」と呼ばれ、ファンラモンさんはその活動のはじまりをつくったひとり。現在、コスタリカには200以上のマイクロミルがあるが、2001年にファン・ラモンさんによって設立されたブルマスマイクロミルは、当時コスタリカでニ番目にできたマイクロミルである。

ハニープロセス
El Paraisoとうたわれるコスタリカは熱帯雨林や山、海、川、貴重な動植物の宝庫として世界中に知られるパラダイス。エコツーリズム発祥の地としても知られ、自然環境の保護には力を入れている。

メガミルが主流だった時代はコーヒーチェリーの処理に大量の水を使用しており、その水は川にそのまま流され生態系に大きな影響を及ぼしていた。そこで政府が排水や土壌に関する法律を定め、コーヒー栽培における環境破壊に歯止めをかけた。
そんな時に起きた小規模で処理することでの少ない水の使用と浄化システムを導入する“マイクロミル革命”はコスタリカの自然環境の保護にも手助けをすることにもなった。

生産者でありながら農業博士でもあるファンラモンさんは、水の使用を控え、限られた条件の中でより美味しいコーヒーをつくるという探究を重ね「ハニープロセス」誕生させる。
そしてその技術を惜しみなく伝え、今では「ハニープロセス」はコスタリカのコーヒーの代名詞ともいえる。

大切なつながり
僕がいきなりコスタリカに行ってコスタリカのスペシャルティコーヒーの歴史を作ってきたような人物に会うことなんて到底できるわけがない。
直接会って話を聞くことができたばかりか、コスタリカに滞在していた数日間はファンラモンさんやナタリーさんはじめブルマスのスタッフさんたちに何から何までとてもお世話になった。
それは、これまでコスタリカを訪れ、ファンラモンさんのコーヒーの美味しさを日本で伝えてきていた先輩方のおかげだと思っている。

2025年2月、コスタリカに行く機会を得た。コーヒーの生産の様子を学ばせていただくのはもちろんだが、最大のミッションは今回コスタリカに行くにあたって先輩から預かった手紙をファンラモンさんに直接渡すこと。そしてコーヒーを通して生まれた物語をつなげる気持ちできているという想いを言葉でちゃんと伝えるということだ。

つなげること
帰り際にファンラモンさんから小さな箱を受け取った。その中には日本にいる先輩へのメッセージが入っているという。その表情からは、僕がコスタリカを訪れ自分に課したミッションが伝わったのだという感触を得た。
先輩からの手紙を直接届け、言葉で感謝の気持ちを伝えることができた。
帰り際に受け取ったファンラモンさんからの手紙を帰国後に真っ先に先輩のもとへ届け、預かった言葉を伝えることができた。

中米のコーヒーの先進国であるコスタリカのコーヒーは、コーヒーをビジネスとしてだけではなく、ファンラモンさんのような惜しみなく愛情を伝える人が、周囲の人たちの心を開き、人と人、時代と時代をつないできたのだ。

言葉や実際のもので伝えるのは、時間と労力がかかってたいへんなことだ。メールやメッセージだったら簡単に早く伝えられるのかもしれない。しかし、これからも美味しいコーヒーを提供させてもらうことや世界中の人とつながり続けることは、感謝や感動といった気持ちを、温度、匂い、音、感触、そういった命が感じられるもので伝えていくことが大切なのだと思って動いていきたい。それはコスタリカでファンラモンさんと過ごした数日間で実感したことだ。


Yoshi
Sproutのオーナー
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