BARISTA Ryoko
山の上は空気が澄んでいて気持ちがいい。だから山で食べるご飯は美味しく感じ、友達との会話も弾み、考え事もスッキリする。
今回の「いつもとなりにはコーヒーがあった」は、SPROUTで一番長く働くバリスタのリョウコちゃんです。10年前最初に出会った時は、プロスノーボーダー飯島令子としてコーヒーを飲みに来た時でした。
「幼い頃からずっとスキーをやっていて、大学に入ってスノーボードをやってみたくてサークルに入ったんですよ。そしたらすごくハマってしまって。雑誌とかも見るようになって、うまい人たちと一緒に行くようになったら、『リョウコちゃんプロになったら〜?』って軽いノリで言われたのがきっかけです。なんだか本気になって、どうやったらプロになれるんだろうって調べて近所のプロショップを知りました。飛び込みで『すいません、プロになりたいんですけど、どうやったらなれますか』って聞いて、その年から冬のスノーボードの篭り生活がはじまりました。」
「2年目のアマチュアのハーフパイプの大会で成績が良くて、初めてスポンサーがつきました。それからはなかなか成績が出なくて、25才の時にようやくプロになることができたんです。」
スノーボードに出会ってからの生活は全てがスノーボード中心で、新潟や岩手に篭りながら新幹線で大学にも通い、長野や北海道、カナダでも滑りながら大会を転戦した。プロになってからも夏はニュージーランドに、春と秋は山梨の室内ゲレンデ、冬は日本各地での大会出場と、リョウコちゃんの雪を求めてのスノーボードバム生活は思い切りがよく、大胆で行動力に溢れていて話を聞いているだけで目が点になってしまう。
「コーヒーを飲むようになったのは、海外に行くようになってからです。滑った後に友達とカフェに行って話したり、ニュージーランドではオフの時にカフェでのんびりしてました。」
「30才の時にニュージーランドで膝を怪我して、その年の秋に手術をしました。そこでプロは引退。
その次の夏からニセコに来ました。冬は滑りに来たことがあったけど、夏のニセコは初めてで、それがすっごい良くて。秋にはSPROUTで働きはじめ、気がついたらそのままいることになりました。人に教えたりするのは苦手なのでインストラクターとかは向いてないんです。友達とセッションとか一緒に滑るのは好きなので、スノーボードは趣味として楽しんでいくことにしたんです。カフェで働こうってなったのは、SPROUTとSPROUTバリスタのゆっこさんが大好きで”働きたいっ”て思っていたのと、誘ってもらったのが同時だったんです。」
SPROUTの良さは、朝滑った後や用事を済ませた後にお店に寄って「今日どうだった?」と山や日常の話を誰かと共有して盛り上がれること。それはバリスタとして働くようになってからも同じで、SPROUTにいると必ず誰かに会える。だから休みの日もコーヒーを飲みに来たりして、友達と楽しい時間を過ごす。
世界中で一人黙々とスノーボードに集中していた時も、現役を引退した後の日常の中でも、リョウコちゃんにとってのカフェは緊張や集中、忙しさとは正反対の、リラックスだったり友達との貴重なオフの時間だったのだ。
何かに対してとことん追求して、思う存分やりきった人というのはこだわりが強く、何事も極めてしまうものという固定観念を持っていたけれど、リョウコちゃんはそれとは全然違う。ふと足下を見ると穴の開きそうなランニングシューズをもう何年も履いている。
「ひとつ気に入ったらそれをずっと使うんですよ。靴も鞄もそうだし、スノーボードで一人で滑る時も同じ場所ばかり滑るんです。毎日同じが良いんです。そういえば現役の時も、練習前に滑る時いつも同じルーティンでした。こだわりとは違うけれど、なんか落ち着くんです。毎日同じだから調子がわかるんです。
コーヒーも同じ気がします。自己満足なんですよ。他の人は全然良いと思ってなくても、自分はなぜかそれが良かったり。フルーティーだったり、綺麗な酸味があったりして感動して他の人と共感する部分もありながら、自分はこういうのが好きだよって言えるところに戻ってくる。無意識でやっている、ストレスのない自己満足がとても大事だと思うんです。」
好きなコーヒーやオススメのコーヒーについて聞かれたら、ほとんどの人はフレーバーや味の印象を答えると思う。しかし、リョウコちゃんにとってコーヒーとは無意識の自己満足のひとつ。スノーボードや友達との楽しい会話という大好きな時間のための、ストレスフリーなものだ。苦すぎず酸っぱすぎず、浅すぎず深すぎず。きれいで飲みやすい。自然と手に持って飲んでいるコーヒーが理想。
「なんか山の空気みたいだね。」と思わずつぶやいた。
コーヒーが好きな理由は、コーヒーの味や個性だけでなくてもいいと思う。「人」や「環境」がコーヒーを好きになる理由もある。その時のコーヒーは主張が少なく、「人」や「環境」というその場の雰囲気を引き立てる、おいしい空気のような存在感だと思う。
最後に、リョウコちゃんにとって、その場の雰囲気を引き立てるコーヒーは何か聞いてみた。
「エルサルバドルかボリビアかな。どちらも優しくて飲みやすく、いつもミルクと合わせて飲む私でもこのコーヒーはアメリカーノやドリップで飲むんです。クセがないからもちろんミルクとの相性も抜群ですよ。」
澄んだ山の空気はそのまま深呼吸するのが一番。
「今日はどうだった?」と淹れてくれたエルサルバドル・カンパヌラを飲みながら、無意識のうちに笑顔で楽しい時間がはじまっている気がする。
本名 飯島令子
埼玉県出身。20歳代の頃、プロスノーボーダーとして活動し、その時訪れたニセコが気に入り移住。現在は元気いっぱいの娘と暮らし、夏は自転車・冬はスノーボードなど、休みの日は親子で一緒に楽しんで充実したニセコライフを送っている。
Yoshi
Sproutのオーナー
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