人間分子の関係・網目の法則

吉野源三郎著「君たちはどう生きるか」で、主人公のコペル君が粉ミルクの缶を手に取り思いを巡らせます。
遠く離れた外国で牛を育て、牛乳が絞られ、加工し、缶に詰め、小分けし、日本に運ばれ、保管し、お店で陳列され、販売される。
コペル君は自分の手元に届くまでに、たくさんの人たちが関わっていることに気が付きます。
さらに、それは粉ミルクの缶だけではなく、電気も時計も机も畳も、身の回りの全てのものに見たことも会ったこともないたくさんの人が繋がっていることを発見します。
コペル君はこれを「人間分子の関係・網目の法則」と名付けました。
この人間分子の関係を利害や金銭での繋がりである「生産関係」ではなく、大切にし合い、お互いを思うことで、網目のように繋がっている社会はどんどん良くなっていくことを書いています。

レモンの生産地へ

広島県尾道市にある日本一のレモンの生産地、瀬戸田にいってきました。
台風上陸の直前で短い滞在でしたが、お店で使用させていただいているレモンの農園のたてみち屋さんを実際に訪れることができ、たいへん勉強になりました。

実際にレモンの実をつけた木に触れ、葉からレモンの香りを嗅ぎ、島に吹く風の音を聞き、五感をフルに使って感じることができました。

農産物は人と同じ

農産物も人と同じで栄養バランスが崩れると病にかかりやすくなったりするそうです。そのために土の栄養をバランスよく整え、元気な木を育てます。外側からの栄養ではなく、中からの栄養で元気な木を育てることで美味しいレモンが育ちます。
実際に触れた畑の土は柔らかく、ふわふわでした。

苗木から大切に育てられたレモンの木はたっぷりと愛情が注がれ、それは我が子を育てる親のようでした。子供が元気に育つように、病気にかからないように見守る姿がありました。

トータルクオリティ

コーヒーの世界でもトータルクオリティという言葉が聞かれるようになりました。
オーガニック認証を受けていてもフェアトレードじゃない
フェアトレードだけど品質が悪い
全てに偏ることのないトータルクオリティということが謳われるようになってきました。
美味しいもの、適正な関係、人にも環境にもやさしいというのはひとつのサイクルのような気がします。
それは、冒頭でのコペル君の「人間分子の関係・網目の法則」を思い出します。

消費者である私たちができること

愛情をかけて丁寧に作られているものは必ず「美味しい」につながります。
そんな「美味しい」ものをこれからも私たちが選んでいくことが大切になっていきますが、それをつなげていくことも大切だと思います。
スペシャルティコーヒーでは「From seed to cup」といわれていますが、美味しいものはサイクルです。「cup」から「seed」につなげていくことも大切です。
美味しいものを口にして感動した。人生が変わった。たくさんの人に出会えた。世界が広がった。「美味しい」という感動を生産者さんに伝えることでサイクルができます。
消費者である私たちが受け取ったバトンは最後のバトンではなく、次の感動につなげるバトンだと気付かされました。

たいへん貴重な機会をありがとうございました。