先日、雌阿寒岳に歩きに行ったときのこと、麓の森に倒木更新を見ることができました。

倒木更新

「倒木更新」という言葉は知っていたものの、実際に見たのは初めてのことでした。
知ったきっかけは幸田文さんの「木」という本でした。その冒頭に登場する「えぞ松の更新」。
実際に見たものはまだまだ小さな芽でしたが、これから何十年も時が経つと芽が木になり、森になっていくのかもしれません。

「北海道の自然林では、えぞ松は倒木のうえに育つ。(中略)北海道の自然は厳しい。発芽はしても育たない。しかし、倒木のうえに着床発芽したものは、しあわせなのだ。」

条件が揃った

木々が年々地上に送る種の数はたくさんありますが、発芽したとしても多くの樹木が生育している森林では笹などがあって太陽の光が届かなかったり、雨で跳ね返った泥に含まれる土壌菌に負けてしまいます。
倒木のうえでは日照不足も緩和でき、雑菌も少なく、共生できる菌が繁殖できるため、うまく成長することができるそうです。
さらに朽ち果てた倒木自体が養分を供給してくれて、表面に生えたコケが湿度を適度に保ってくれます。
倒木にコケが生えるのに10年から20年、発芽し10cmくらいになるまで2、3年、20cmから30cm育つのに25年から30年。強いものだけが生き残り、何百年もかけて途方もない歳月をかけて新たな森がつくられます。
何百年も経っていたら元の倒木は腐食しつくして、形もなくそこに倒れていた跡すらありません。あるのは地面の起伏のみ。

違う時間の流れの中で

森林の中の時間の流れは私たちの日常の暮らしの時間の流れとは明らかに違います。
しかし、私たちが数年、数ヶ月、数週間、数日、数時間、という短い時間の中で起きていることは、自然の流れと同じこと。
人と人とが出会ったり、何かにチャレンジしたり。良いことも悪いことも含めて、全ては人と人がそこにいるから起こることです。
SPROUTというお店もたくさんの人の芽が集まり、お互いに栄養を与え、もらいながら成長し、新芽は木となり森となり、新たな新芽が生まれて新たな森ができる。
自然の流れに委ねることで、倒木更新と同じことが私たちの日常の暮らしの中でも起こっていることに、山歩きを通して気がつくことができました。