SPROUTとしての新しいプロジェクト、生産者・提供者・消費者までコーヒーのある暮らしをつなぐ「さんかくらいふ」の第一回目の企画として、「捨てられてしまうコーヒーをカタチとして残す」札幌の野口染舗・野口繁太郎さんが主催する「BetulaN」によるコーヒー染がはじまりました。
消えてしまうものに命を吹き込む
「ワインは飲んだらなくなってラベルのついたボトルしか残らないけれど、自分たちが育ててきたものが形として残ることはすごく嬉しい。」
野口さんがワインの生産者さんとの企画で搾った後のブドウを使って染めものをつくった際に言われたという。
「消えてしまうものに染めものを通してふたたび命を吹き込む」というのが「BetulaN」の想いでもある。

「作業をするときは『この人のために』っていう想いを大切にしてます。それは僕だけではなくて、どういう人からの依頼でどういう経緯などというストーリーを職人たちにも共有します。背景が大切なんです。物語や想いをどこまで込められるか。それはモノを通して人と出会ったことになるんです。」
同じ色の同じ形の製品でも、物語や想いなどの背景があるかどうかで感じるものは違うはずだ。
関わる人の物語を大切にしたいという野口さんが、モノを売っているのではなく、コトを売っているのだというのが伝わった。

焙煎×媒染、ふたつの「ばいせん」
豊平川の近くにあり、水に恵まれた場所で地下水を使用して作業は行われる。
亜麻色のコーヒーの染料がシンクいっぱいに溜まっている。
帆布でできた布を浸けては出し浸けては出しを繰り返し、みるみるキナリの布が染まっていく。

染料として使っているコーヒーは飲んだ後の出涸らしや使用済みのサンプル豆、大きさなどさまざまな問題から欠点として弾かれてしまう豆など、本来は捨ててしまうコーヒーだ。
生地を染める準備をするために、焙煎されたコーヒーを粉にし、カビなどが生えないように着物を包む和紙の上に敷き詰め、すぐに乾燥させて保管してから使用する。

「コーヒーをただ浸けてるだけだと染まらないんです。色がつかないで落ちていっちゃうんです。そこで染の世界では『媒染』という作業をするんですよ。『媒染』をすることで色に深みが出るんです。」

媒染とは金属を使うことが多く、金属イオンと素材の色素を結びつけることで色落ちしにくくなり、色が定着する。野口さんの場合は「染」と「媒染」の工程を交互に数回行って色の深みを出している。
鉄や銅などといった金属の種類と結んだり折り込みを入れたりと組み合わせを考えると同じ染料でもパターンは無限大にある。
染める準備が施された生地は媒染と染色とを繰り返す。ただコーヒーに布を浸ければ染まるものだと思っていたが、作業はそんなに単純ではなかった。
焙煎されたコーヒーは染めるために媒染される。
生豆が焙煎されコーヒー豆になり、媒染という作業によって染め物になる。「ばいせん」がその対象に命を吹き込む作業に感じた。

物語の循環
一杯のカップに注がれるまでにたくさんの人の手を通ってやってくるコーヒーは、大きく分けると生産者から提供者、消費者という流れになるが、その流れは一方通行だったり、消費者で終わってしまうように感じていた。
コーヒーも飲んだら終わってしまうのか。
美味しいコーヒーを飲んだ後の感動や出会い、広がり、コーヒーにまつわるさまざまな物語を関わる人たちに届けたい。
生産者や提供者の物語を消費者に届けるように、消費者の物語も生産者や提供者に届ける。それができれば物語は循環し途切れることなくつながっていくだろう。
「BetulaN」にお願いしたコーヒー染は飲んだ後のコーヒーの物語をつないで届けるためのものだ。

「幼い頃はサッカー一筋でした。」
創業70年を超える野口染舗の野口さんのお話を伺った第一声に意表をつかれた。
「ずっとサッカーしていて、そのあと飲食店で働いたんですね。そこで出会ったお客さんに海外に行ってみたらって勧められて。それがきっかけでオーストラリアの田舎に何ヶ月も滞在したり、ロサンゼルスからニューヨークまでのアメリカ横断もしたんですよ。」

旅の道中で世界各国の人と触れ合っていく中で自国である日本の話になると「キモノ」という言葉が必ずと言っていいほどでてきた。
「家業が着物に携わる仕事でありながら着物のことが語れなかったことに恥ずかしい、悔しい、情けないっていう思いになりました。サッカーでもこんな思いしたことがなかった。」
旅での出来事が野口さんが家業に携わることを決めたという。

人との出会いを大切にするからこそ生まれた「BeturaN」。ここから終わらないコーヒーの物語のひとつがまたはじまる。
染色職人
野口 繁太郎
野口染舗5代目。着物業界の市場が、年々縮小していくなか「日本人と着物の間に出来てしまった距離を縮める」ことをコンセプトに、カジュアルキモノブランド「Shi bun no San」を立ち上げる。さらに、捨ててしまうもので染める「Re COLOR PROJECT」をスタート。2023年には、北海道らしい天然染めを追求し「BetulaN」が誕生。
野口染舗
1948年創業の野口染舗。北海道の悉皆屋として、着物を少しでも長く美しく着続けていただくために、シミ抜き・クリーニング・染め替え・撥水加工やお仕立てなどのメンテナンスを行ってきました。現在は洋服や小物もふくめ、ご希望に合わせて柔軟に対応。日本の染色文化と、ものを大切にする心を継承していくため、染めの新しい形を模索し挑戦を続けている。
2月22日-23日はCamp&Go WhiteWallRoomにて販売会が行われます。
木製スタンプのmake a markさんによるスタンプ押しのワークショップも同時開催されますので、コーヒー染のバッグにスタンプを押して、ぜひ世界に一つのオリジナルバッグをつくってみてください。
Camp&Goイベント
2月22日19:00からはSpeaker Campで野口さんのお話を聞くことがでkます。
この機会にぜひご参加ください。
北海道の天然染めBetulaN(ベチュラン)の活動

Yoshi
Sproutのオーナー
最新の記事
2025年1月17日
自然はいつもたくさんのことを教えてくれる
2025年1月10日
雪が降る街の暮らし
2025年1月5日
2025 SPROUT / Camp&Go
2024年12月26日